2011年、ラグビーワールドカップがニュージーランドで開催された年。当時のオークランドは、街全体がひとつの巨大なスタジアムと化したようなお祭りムードに包まれていました。その年たまたまオークランドに住んでいた私は、運よくあの熱気を肌で感じることができました。
街に出ればどこを歩いても黒いユニフォームの人たちばかり。クイーン・ストリートもウォーターフロントも、お祭りそのものでした。
オールブラックスへの期待と、積み重なったプレッシャー
オールブラックスはその大会で断トツの優勝候補でしたが、実は1987年の初開催で優勝して以来、一度もワールドカップを制していませんでした。前大会では格下と見られていたフランスにまさかの敗退を喫し、国民の期待と焦りが絡み合う複雑な空気がありました。
さらに追い打ちをかけるように、決勝トーナメント直前に絶対的エースのキッカー、Dan Carter(ダン・カーター)が負傷離脱。これが後に決勝戦で大きな影響を与えることになります。
試合の日は、国全体がひとつのチームになる
オールブラックスの試合がある日は特別でした。パブや広場に大型スクリーンが設置され、街全体が試合に向けて息を合わせるような熱気が漂います。私も何度かパブリックビューイングやパブで観戦しましたが、パイントを片手に、見ず知らずの人と自然と肩を組んだりハイタッチしたり——この国がいかにラグビーを愛しているかを、言葉ではなく体で理解できる時間でした。

日本 vs フランス戦——目の前で見た奮闘

大会の中でも特に印象深かったのが、North Harbour Stadiumで行われた日本 vs フランス戦です。運よくフィールドのかなり近い席を確保でき、控え選手がアップで目の前を通るほどの距離で観戦しました。

正直なところ、格上のフランス相手に大差がつくかもと思っていました。しかしこの日の日本代表は違いました。スクラムで押されても踏ん張り、体を張ったタックルを繰り返し、トライが決まった瞬間のスタンドの盛り上がりは忘れられません。結果は47対21でしたが、後半途中では25対21と僅差にまで追い上げました。

日本人観客は大盛り上がり、フランスサポーターはどこか静まり返っていました。最終的には力負けでしたが、世界の強豪に真っ向から挑む日本代表の姿をあの距離で見られたことは、得がたい体験でした。


フランス vs イングランド戦——二色に染まったスタジアム
もう一試合、フランス vs イングランドも観戦しました。伝統の一戦だけあって、スタジアムは両国サポーターによって真っ二つに分断されたような独特の緊張感がありました。イングランドはフランスの守備を最後まで崩せず、19対12でフランスが勝利。前評判の高くなかったフランスが、まさかの決勝進出を果たします。

オールブラックス vs フランス決勝——パブで迎えた歴史的瞬間
大会のフィナーレは、宿命の対決——オールブラックス vs フランス。前大会で敗れた因縁の相手との再戦です。グループステージでは圧勝していたものの、その時にはダン・カーターがいました。キッカー不在の決勝は、まるで別の試合になると誰もが予感していました。
パブで観戦していた会場は盛り上がってはいたものの、どこか嫌な緊張感が漂っていました。みんな、フランスを不気味な存在として警戒していました。
試合は開始前から波乱の予感。ハカを行うオールブラックスに向かってフランス代表が前進してきたことで、試合後に罰金が科されるというハプニングから幕が開きます。
そして試合は予想通りの大接戦、キック合戦に。ダン・カーターの代役キッカーWeepuがコンバージョンを含め3本を外し、別のキッカーCrudenも負傷退場する絶体絶命の局面で、この大会で一度も出場機会のなかったStephen Donaldが急遽ピッチへ。そのプレッシャーの中でキックを見事に決め、チームを救いました。
その後フランスが1トライ1コンバージョンを返し、最終スコアは1点差。最後の最後まで気の抜けない、守り抜く戦いでした。
最後のホイッスルが鳴った瞬間——パブは歓声と涙と抱擁でごった返し、外へ出れば街中が人であふれていました。オークランドが歓喜の渦に包まれた夜でした。

あの場所にいられたこと
2011年のワールドカップは、単なるスポーツイベントではありませんでした。ニュージーランドという国がいかにラグビーを愛し、オールブラックスに何を託しているのかを、あの街の熱気の中で肌で感じることができた、本当に貴重な体験でした。
ダン・カーターはこの大会で試合に出られず悔しい思いをしましたが、2015年大会では見事カムバックを果たし、MVPを獲得しています。逆に言えば、もし彼がいなければ2011年は優勝できていなかったかもしれない——ラグビーにおけるキッカーの重要性を、あの決勝で改めて思い知りました。
これにてニュージーランド編は終了です。ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。次回からは北米、あるいはヨーロッパの話へと移っていく予定です。引き続きよろしくお願いします!


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